第1回 京都大学 阿形清和教授 Part 1
第1回 京都大学 阿形清和教授 Part 1
メビオ卒業生
メビオ講師コラム
2018/11/20(火)
阿形教授はメビオ創設時、生物の講師としてテキスト・指導体系などの基礎をつくり上げてくれました。彼と私は京都大学に学び、サッカーチームを通して交友を深めてきました。阿形教授は、監督を務めた私のもとプレイヤーとして活躍する存在であり、また切磋琢磨し合えるチームメイトでもありました。メンバーそれぞれが研究・実験と忙しい中、週1回の練習だけで、我々のチームは天皇杯の京都代表をかけた決勝戦まで勝ち進むという好成績をあげていました。
ゲームを控えての戦術・戦略、そして若いメンバーをどう育てていくかということなどを熱くそして激しく語り合ったものです。そして今でも会うたびに、日本サッカーの未来、ライフサイエンス、若者に対する教育などについて何時も語り合っている仲間です。
京都大学 理学研究科 教授
発生生物学会・動物学会前会長
1981-1983年アレフ会(現メビオ)で生物講師を務める。
1979年 京都大学 理学部卒業
1983年 京都大学大学院 理学研究科 修了
1983年より基礎生物学研究所助手、1991年より姫路工業大学(現・兵庫県立大学)理学部生命科学助教授、2000年より岡山大学理学部教授、2002年より理化学研究所発生再生科学総合研究センター・グループディレクター専任、2005年より京都大学大学院理学研究科教授
第35回日本分子生物学会年会長、日本発生生物学会、日本動物学会会長などを歴任。
※プロフィールに関しては対談時のものとなっております。
第1回は京都大学の阿形清和教授と、メビオ創設メンバーの一人、萩原茂の対談です。
昨年度から京都大学では新入生に対し、霊長類研究の山極壽一総長、iPS細胞の山中伸弥教授など26人の最高の頭脳に直接触れることのできる「生物学のフロンティア」という講義のシリーズがスタートしました。
阿形教授はこのシリーズを企画し自らそのトップバッターを務めました。「単に教科書にしたがった講義では、学生はついてこない。しかし興味を持たせてあげれば、学生は自分から勉強してくれる。やる気を出すきっかけを与えて研究への興味と情熱をかきたててあげれば自分の力で世界に通用するレベルにまで進んでくれる。その成熟のための場を提供するのが大学なのだ」という考えからです。
35年前のメビオの授業でも、阿形先生は、多くの知識と経験の中から様々な面白さを「余談」としてはさみこみながら、生徒を生物学へと引き込んでいきました。「生徒のやる気を引き出す」、これがスタート時点からメビオが受験で好成績をあげることができた大きな要因だと思います。
Part 1 授業には「雑談」が大事。1950年代から急速に進化した発生やDNAの研究の裏話などを話してあげると、生徒はがぜん食いついてくる。
萩原
去年はサッカーチームのOB会を国立競技場で開催するという夢のような話の実現に尽力してくれてありがとう。我々のように高校まで東京で過ごしたサッカー少年にとっては、あのメキシコオリンピックでブロンズメダルを取ったチームが熟成していく過程を目の当たりにしてきた国立競技場で試合ができるということは夢のまた夢だったからね。
阿形
いい芝生でしたね。あの感触は忘れられないな。
萩原
ところで、京都大学(以下 京大)の「生物学のフロンティア」の講義は大盛況だったようだね。
阿形
とくに山中伸弥教授の講義は、500人が入れる大教室に変更したにもかかわらず、マスコミを含めて超満員、立ち見まで出たな。朝日新聞などは「もぐりの聴衆であふれていた」と、京大のもぐり授業のカルチャーを見抜いているような書きぶりだったね。
萩原
山中教授の講義はどういう感じだった?
阿形
午後の2回目の講義はマスコミがいなくなったので、山中教授は1時間半にわたって次から次へと冗談を言ってたね。「iPS研究所には臨時雇用の研究者が300人いて、1年間に5億円の経費がかかる。私がフルマラソンを1回完走すると研究所に1000万円の寄付が集まる。この計算でいくと300人の研究者を維持するためには1年に50回、フルマラソンを走り続けなければならない」なんて調子の冗談の連発だよ。面白い講義だった。
萩原
それだけ冗談を連発するとは意外だね。山中教授の講義を入学早々受けられるなんて、学生にとっては貴重な経験になったでしょう?
阿形
そこが狙いなんだ。いや、たいした講義だったよ。面白かった。
萩原
阿形さんのメビオでの授業も、冗談を含めていろいろな話をしていたね。授業にはいわゆる「雑談」が大事だよね。1950年代から急速に進化した発生やDNAの研究の裏話などを話してあげると、生徒はがぜん食いついてくる。
阿形
そう、生物がおもしろいと思ってくれた生徒は目の輝きが変わってくる。ありがたいことに生物には、実験などを含めてその手のおもしろい話がいっぱいある。
萩原
山中伸弥さんのノーベル賞を受賞した年に、サッカーチームのOB会で「何かおもしろいネタはないか」と聞いた私に、阿形さんが教えてくれた話を覚えているかな。
阿形
クローン羊のドリーの研究がノーベル賞を取れなかった話だね。
萩原
そう。核移植によってアフリカツメガエルのクローンを作成したガードンさんの研究と、50年後にiPS細胞を作成した山中伸弥さんの研究の共通のテーマはReprogramming(初期化)で、両名がノーベル賞を共同受賞した。実はその二人の研究の間に、哺乳類のクローン羊ドリーの作成という同じテーマの研究がある。同じ研究テーマなのに、なぜドリーを作成したウィルムットが受賞対象から外されたかの理由は …
阿形
… 移植核を取り出したのが雌羊の胸腺の細胞で、その核を移植した未受精卵からクローン羊が作成され、その羊は研究チームのメンバーのしゃれっけでアメリカのグラマー歌手ドリー・パートンにちなんでドリーと命名された。これがノーベル賞委員会の倫理規定にひっかかって、受賞からはずされた。我々の業界ではもっぱらそう言われている。という話ね。
萩原
その話メビオの授業で使わせてもらってますよ。生徒は、時代を隔てた3つの研究がReprogrammingという同じテーマの上にあるということをすぐに理解してくれるし、忘れない。
阿形
Reprogrammingという言葉は教科書には出てこないけど、教えておいたほうがいいね。これから入試にも必ず出てくる言葉だと思う。