個性を見極め、基礎から鍛える指導に うまく乗って、志望校に進学。
F君の場合(2015年卒)
大阪医科大進学。
他に、三重大医学部、愛知医科大、金沢医科大、兵庫医科大、近畿大医学部合格。
小柄なF君は、いつも猪突猛進。道を歩くときでさえ、沈思黙考しながらひたすら直進を続け、すれ違った講師が声をかけても気づかないほど。どの講師も口をそろえて「とにかくまじめに取組む生徒だった」と振り返ります。もう少し要領よくやれれば・・・・・・と、講師がやきもきするほどに、頑固一徹な生徒だったのです。
春期講習以来、長い付き合いとなる高橋は数学と物理を担当していました。「計算ミスをしたり、簡単な問題ができなかったりすると猛烈に怒るんです」。それは、自分自身に対する怒りでした。こちらの指示したことを隅々までやろうとは考えてくれている。しかし、F君は自分では気づけないほどの頑固な精神の持ち主でした。プライドが高いところがあって、自分の思うような結果が出ないとかなり露骨にいらつくことも多かったのです。英語の和訳でも、うんと背伸びした文章を書こうとしてしまう、と担当の上田昭夫は振り返ります。もちろん、それも向上心の表れなのですが、要領やテクニックというものをなかなか修得できなかったのです。物理の石川によれば、「超まじめなんですが、融通が利かなくて本人も苦労していました。勉強量などには全く文句をつけるところがないんですが、逆にちょっとゆったり構えて楽に考えてみればと言いたい時が多かったんです」。
秋になり、F君は国公立志望の意志を固めます。国語と社会が授業追加されることになり、さらに壁が立ちはだかります。国語は現代文・古典ともに、大の苦手としていたからです。現代文担当講師はF君の文章の読み方が、かなり独特であることに気づきました。特定の語彙に引っぱられて、自分で文脈を作ってしまうのです。「自分はこうとしか思えないんですが、でも、違うんですよね?」それでも、F君は持ち前のまじめさで、文章の読解に取っ組み合い、同じ問題を二度、三度と解き直し、自分の思考過程の独りよがりなところを洗い直す努力を続けました。
冬が来ます。ここでF君に大きな変化が訪れます。なかなか突き抜けられないF君の原因は、実は基礎的な理解にありました。例えば物理なら、運動量と力積の関係。数Ⅲの微分。全体的にそこそこの理解はできるものの、きちんと解き切れていない。講師陣は、F君の答案を本人と一緒に見ながら、それぞれのミスが、どの概念のあいまいな理解に由来しているかということを、各科目で確認していきました。時期は直前期に入っていましたが、一見遠回りでもF君にはこれが最善の道でした。こういう勉強は、表面的には「分かりました」と言いながらも、なかなか考えを変えてくれない生徒もよくいるのですが、この時期のF君は実に素直でした。勉強の仕方を変えてくれたのです。「答えは出たが、分かっていない気がする」という問題で、授業後に質問にくることも増えてきました。石川によれば、「昨年度、もっとも〈うまくはまった〉感じがあった生徒です」。結局、1年を振り返ってみれば、要領やテクニックは、表層的に取り入れるものではない、ということをF君自身がよく分かっていたということだったのです。
基礎的理解の上にこそ要領やテクニックの世界がある。彼は冬期講習中盤以降、飛躍的に「試合巧者」となっていきました。処理の多い数ⅡBでも、安定して得点できるようになりました。英語の和訳も見違えるほどこなれたものになったと、上田は目を細めて振り返るのでした。センターもぶれることなく、全体で9割以上を得点し、見事三重大に合格を果たしたのでした。ここで、講師陣を驚かせる出来事がありました。三重大には進学せず、入学先として大阪医科大を選んだのです。あれほど悩んで決意した国立大受験だったのにと周囲は驚きましたが、今思えばF君らしい選択です。最後の最後までF君は自分で考えて前に進むという頑固さを失わなかったのでした。