[大医前期2022]医学部入試問題のフカヨミ/化学科 講師 加治屋
[大医前期2022]医学部入試問題のフカヨミ/化学科 講師 加治屋
うんちく・小ネタ
入試
メビオ講師コラム
2022/02/18(金)
2022年度 大阪医科薬科大学入試の化学について
まずはこの問題を見てください
つぎの文を読み、以下の各問いに答えなさい。
ただし、アボガドロ定数 $N\rm{_A} = 6.02 × 10^{23} \rm{/mol}$ とする。
【東海大学医学部 2012 年 2/2 実施入試問題より】(一部問題文を編集)
高級脂肪酸をシクロヘキサンに溶解して水面に滴下すると、図に示すように高級脂肪酸分子が水面上に直立して一層に並んだ膜を形成する。この膜は単分子膜と呼ばれる。高級脂肪酸であるミリスチン酸 ( $\rm{C_{13}H_{27}COOH}$ ) $0.0241 \rm{g}$ をシクロヘキサンに溶かして $100 \rm{mL}$ の溶液を調製した。水が張られた水槽上にビュレットを用いてこの溶液を $10$ 滴滴下したところ、面積 $229 \rm{cm}^2$ の単分子膜を形成した。また、ビュレットから滴下した溶液 $1$ 滴の体積は $0.0214 \rm{mL}$ であった。
- 問 1
- 得られた単分子膜を形成しているミリスチン酸の分子の数を求め、有効数字 $3$ 桁で解答欄に書きなさい。ただし、滴下したミリスチン酸の分子はすべて単分子膜を形成するものとする。
- 問 2
- 得られた単分子膜の面積とそれを形成しているミリスチン酸の分子数から、単分子膜中でミリスチン酸 $1$ 分子が占める断面積〔$\rm{cm}^2$〕を求め、有効数字 $3$ 桁で解答欄に書きなさい。
「なんだ、単分子膜の問題か。こんなの見たことあるし、解いたことあるぞ!」という受験生の方は多いと思います。
この高級脂肪酸の単分子膜の問題は医学部に限らず様々な大学で出題されてきた有名問題なので、化学をよく勉強してきた方は考え方までよくご存知だとは思いますが、このコラムはまだ受験期ではない高校生の方もご覧になっているかもしれないので、少し解説させてくださいね。
- 高級脂肪酸(疎水性で水に溶けにくい長鎖炭化水素基と、極性が大きく親水性で水に溶けやすいカルボキシ基 ( $–\rm{COOH}$ ) を末端に有する物質)を水に少しずつ滴下するとすべて液面にとどまり、問題文中の図のように炭化水素基を水面から外に出し、カルボキシ基を水中に入れた形ですべての分子が直立した状態のいわゆる単分子膜を形成する (滴下する量を増やし過ぎると分子が多層構造になってしまい「単分子膜」ではなくなってしまう)。
- 物質量 $n$ の判明している高級脂肪酸を水面に滴下し、水面に広がった脂肪酸の単分子膜の面積 $S$ を測定する。
- 分子模型などからこの高級脂肪酸 $1$ 分子が液面で直立した際の断面積 $S\rm{_0}$ を見積もる。
- 液面に広がった単分子膜の面積 $S$ を $1$ 分子あたりの断面積 $S\rm{_0}$ で割って滴下した高級脂肪酸の分子数 $N$ を求める$\left(N = \cfrac{S}{S\rm{_0}} \right)$。
- 滴下した脂肪酸の分子数 $N$ をその物質量 $n$ で割ってアボガドロ定数 $N\rm{_A}$ を求める$\left(N = \cfrac{N}{n} \right)$。
問題によってパターンは色々とあり、この上記の東海大学の過去問のようにアボガドロ定数 $N\rm{_A}$ が与えられていて、高級脂肪酸 $1$ 分子の断面積 $S\rm{_0}$ を求める形や、単分子膜の面積 $S$ を求める形式だったりもするのですが、考え方はすべて同じです。
ちなみにこの東海大学の問題の解答は、問 $1$:$1.36 × 10^{17}$ 個、問 $2$:$1.68 × 10^{−15} \rm{cm}^2$ となります。
初見の人は一度自分で解いてみてくださいね。
さて、ここまでお話してきて、「この単分子膜の問題って今回の大阪医科薬科大学の問題と何が関係あるの?」「今回、単分子膜の問題なんか出てないぞ!」と思っている方もいらっしゃるでしょう。
問題文を見てみましょう。
今回の大阪医科薬科大学前期の出題でこの問題と関連していたのは大問 $\rm{Ⅰ}$ 問 4 です
- 問 4
- 細かなセッケンの泡では、気体と液体の界面においてセッケン分子はどのように存在するか。セッケン分子を模式的に◯—(丸は親水性の部分、棒は疎水性の部分を示す)のように表し、セッケン分子どうしの関係がわかるように解答欄の図に記入せよ。
さて、実際に受験した方は今回のこの問題解けたでしょうか?
解答用紙には液体と気体の界面のカーブのみが記されておりそこに◯—を図示する形式でしたが、今まで経験したことがなく戸惑った人も多かったのではと推測します。
ここで先ほどみた単分子膜の図をもう一度思い出してみましょう。
高級脂肪酸は水面に集まり、疎水性の炭化水素基を水面から出して空気中に、親水性のカルボキシ基を水中に入れて気体と液体の界面に一分子ずつ横一面に並ぶ単分子膜となるのでしたよね?
セッケンは高級脂肪酸のナトリウム塩 (またはカリウム塩) であり、水中では電離した形で存在しているので、高級脂肪酸と異なるところは、末端のカルボキシ基が電離していないか ($–\rm{COOH}$) 、電離しているか ($–\rm{COO}^−$) の違いだけです。しかも電離している方がさらに極性が大きくなり親水性が上がります。
それを理解していればこの図は描けるでしょう?
私が今回一番わかっていただきたいのは、例えば化学の勉強で問題集の中の単分子膜の問題を解いた際、問題文の設定のみを読んで立式し、計算結果が解答と合致すれば、「はい! 解けた!」 と次へ進み、解き方だけを理解して(もしくは覚えて)その問題の内容を忘れてしまうのは勿体ないということです。
「炭化水素基は $\rm{C}$ と$\rm{H}$ の電気陰性度の差が小さいからほぼ無極性で疎水性、カルボキシ基は$\rm{C}$ と$\rm{O}$ 、$\rm{O}$ と $\rm{H}$ の電気陰性度の差が大きいことから極性も大きく親水性。だから炭化水素基は水に溶けることができないから水面に落とすと水から顔を出して空気中に垂直に立ち、カルボキシ基は水に溶けやすいので水中に存在する。したがって分子の量が少なければ液面に分子が $1$ 分子ずつ横に並んだ単分子膜となる」
関連問題が近年の大阪医科薬科大学と兵庫医科大学の過去問にも
【大阪医科薬科大学 2017 年前期入試 大問 $\rm{II}$ より】(一部問題文を編集)
- 問 3
- 次の中で保護コロイドを含むもの $3$ つを記号で示し、それぞれについて保護コロイドとなる分散質を答えよ。
(A) 煙 | (B) セッケンの泡 | (C) 墨 汁 |
(D) 霧 | (E) 発泡スチロール | (F) マヨネーズ |
(G) 食塩水 | (H) ゼリー | (I) ステンドグラス |
【兵庫医科大学 2021 年入試 [問 2] より】(一部問題文を編集)
- (5)
- 界面活性剤の水溶液を用いると、シャボン玉を作ることができる。シャボン玉の断面の一部を、分子モデル(◯—)を用いて解答欄の$\boxed{\phantom{\text{空白括弧}}}$に描け。
この大阪医科薬科大学の過去問の解答は、
記号 | (B) | (C) | (F) |
含まれる保護コロイド | セッケン | にかわ | 卵黄中のリン脂質(レシチン) |
であり、
本来空気は水中では安定に気泡として存在できないが、その表面にセッケンという親水コロイドが存在すると水と親和性が高くなりセッケンの泡が水中で安定に存在できる、というもの。
さらに兵庫医科大学の過去問の解答は、今回の問題とほぼ同じだが、シャボン玉の内側にも外側にも空気があるので、
上に示す図が正解となります。
こういった問題を一度解いていれば今回の問題はすんなりと解けたでしょう。
特に大阪医科薬科大学はこの問題に限らず、今回出題された鉄の錆びる仕組みの問題についても過去に出題されています。過去問を解くことはこのように「知らない問題をなるべく潰す」という意味では重要なのですが、ある大学で出題されたテーマが他の大学で使い回されるということはよくあるので、志望校の過去問のみを解くよりも、様々な問題に当たることが重要といえるでしょう。
〈医学部進学予備校メビオ〉 化学科 講師 加治屋
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