医学部受験一筋医学部進学予備校メビオ

2023藤田医科大学(前期)入試問題のフカヨミ|メビオ数学科 亀井

  1. 医学部進学予備校メビオ
  2. 医学部受験ブログ|【メビオ】医学部進学予備校
  3. 2023藤田医科大学(前期)入試問題のフカヨミ|メビオ数学科 亀井

2023藤田医科大学(前期)入試問題のフカヨミ|メビオ数学科 亀井

うんちく・小ネタ

入試

メビオ講師コラム

2023/03/05(日)

藤田医科大学2023年度前期入試問題より

メビオでは問題入手可能な私立医学部では解答速報を行っています. 解答は,受験生として最も望ましい解法を掲載するのですが, なかには数学的に内容が深く興味深い問題もあって,じっくり考えると実に面白いものも多いのです.

最近解いた問題で,私が見つけた「別解」をひとつ紹介しましょう.

藤田医科大学一般前期入試問題(2023年1月19日実施)の問題3は次の通りでした.

問題

$xy$ 平面上の点 $(p,\ q)$ について, $p,\ q$ がともに整数のときこの点を格子点と呼ぶ。 また $e$ を自然対数の底とするとき,$p-e$ または $p+e$ のどちらかと, $q+\dfrac{1}{2}$ がともに整数のとき,この点を $e$ 点と呼ぶことにする。 例えば,$(p,\ q)=\left(1-e,\ \dfrac{3}{2}\right)$ は $e$ 点である。

次の問いに答えよ。ただし,素数の平方根と $e$ が無理数であり,$2.7\lt e\lt 2.8$ であることは証明なしに用いてよい。

  1. 2つの格子点を結ぶ任意の線分は $e$ 点を通らないことを示せ。
  2. 4つの格子点を頂点とし,1辺の長さが1の任意の正方形の内部にある $e$ 点の個数を求めよ。
  3. 3つの格子点を頂点とし,1辺が $x$ 軸に平行,$1$ 辺が $y$ 軸に平行な任意の直角三角形の面積は,この三角形の内部にある $e$ 点の個数の $\dfrac{1}{2}$ に等しいことを示せ。
  4. 3つの格子点を頂点とする任意の三角形の面積は,この三角形の内部にある $e$ 点の個数の $\dfrac{1}{2}$ に等しいことを示せ。
  5. 3つの格子点を頂点とする正三角形は存在しないことを示せ。

この問題で最も大事なのはもちろん (4) です.(1)~(3) はその証明のための誘導になっています.

かみ砕いて説明しましょう.問題にある $e$ 点は次のように位置しています,規則的に並んでいますね.ここに格子点を頂点に持つ三角形を書き込んでみましょう. 例えば頂点を $\mathrm{A}(-2,\ -2),\ \mathrm{B}(2,\ -1),\ \mathrm{C}(-1,\ 3)$ としてみます.

辺が $e$ 点を掠るような箇所はありますが,$e$ 点自体を通ることはありません.それは $e$ 点の $x$ 座標が無理数で,$y$ 座標が有理数だからです.これを (1) で証明させています.

さて,$\triangle\mathrm{ABC}$ の面積は $\dfrac{19}{2}$ です. また,$\triangle\mathrm{ABC}$ の内部の $e$ 点の数は 19 です. 確かに面積は $e$ 点の数の半分になっていますね. 誘導は読まずに,なぜこれが成り立つのか,どうやったら証明できるのかを考えてみてください.

本質は $e$ 点の位置の対称性にあります.つまり $m,\ n$ を整数として,$(m,\ n)$ の平行移動,点 $(m,\ n)$ に関する対称変換,直線 $x=m$ や $y=n$ に関する対称変換では $e$ 点は不変になっています.

問題の(3)にもあるように,おそらく最初に気付くのは,上図 $\triangle\mathrm{ADB}$ などの(二辺が座標軸に平行になっている)直角三角形の面積が,内部の $e$ 点の数の $\dfrac{1}{2}$ になっていることだと思います. 長方形ADBCの面積は明らかに内部の $e$ 点の数の $\dfrac{1}{2}$ になっていますが,三角形ADBを回転させて三角形BEAに重ね合わせると,内部の $e$ 点も完全に一致するので,三角形の面積も $e$ 点数も長方形の半分になっているからです.

それを使えば,先程の三角形ABCに直角三角形ADBなどを付け加えて長方形にしてやることで,(4)の証明が出来そうです,ただ,$\triangle\mathrm{ABC}$ が鈍角三角形になっている場合などの直角三角形の補い方などを厳密に述べるのは結構面倒そうです.詳しくは解答速報をご覧ください.

なんとか面倒な場合分けなしで証明できないだろうかと考えた末,はさみうちの原理が利用できることに気付きました.
「はさみうち?それは数学Ⅲの関数や数列の極限に関する定理だからこの問題とは関係ないのでは?」
と思われたでしょうか. いえいえ,ちゃんと使えるのです.それを解説します.

$X$ を,格子点を頂点とする三角形とします.$X$ を$180^{\circ}$ 回転した三角形と元の $X$ を,どこかの辺が一致するように張り合わせると,格子点を頂点とする平行四辺形が出来ます.

この平行四辺形を平行移動した(頂点を格子点とする)平行四辺形で平面を埋め尽くすことが出来ます.結局 $X$ と合同な三角形で平面を埋め尽くすことが出来るわけです. そしてそれらの合同な三角形に含まれる $e$ 点の個数は,どの三角形についてもすべて同じです (格子点に関する対称移動と,格子点を保つ平行移動で重なるからです).

$X$ の面積を $S(X)$, $X$ に含まれる $e$ 点の個数を $e(X)$ とすると, 右下の図に現れる $X$ と合同な三角形が $n$ 個集まってできる領域の面積は $nS(X)$ で,その領域内の $e$ 点の個数は $ne(X)$ ということになります.

さて,$a$ を適当な自然数として,この平面に $(\pm a,\ \pm a)$ を4頂点とする正方形を描きます.この正方形の内部および周の領域を $Y$ とします(次の図の小さい方の太線正方形です). そして平面を覆いつくしている $X$ と合同な三角形たちのうち,$Y$ と共通部分を持つものの和集合を $T$ とします(次の図の網掛け部分です).

さらに $X$ のどの辺よりも大きな整数 $l$ を一つ決め,$(\pm(a+l),\ \pm(a+l))$ を4頂点とする正方形の内部および周の領域を $Z$ とします(図の大きい方の太線正方形です).$l$ の決め方から,$Z$ は $T$ を内部に含むことになります.

以上のことは集合の用語で,$Y \subset T \subset Z$ と書くこともできます.

$Y,\ T,\ Z$ の面積を $S(Y),\ S(T),\ S(Z)$,$Y,\ T,\ Z$ の内部の $e$ 点の数を $e(Y),\ e(T),\ e(Z)$ と表すことにすると,$Y \subset T \subset Z$ である以上,明らかに $S(Y)\leqq S(T)\leqq S(Z)$ も $e(Y)\leqq e(T)\leqq e(Z)$も成り立ちます.先程述べたことからこの関係は次のように翻訳されます.

\begin{align*} S(Y)\leqq S(T)\leqq S(Z)&\Longrightarrow a^2 \leqq nS(X) \leqq (a+2l)^2\\ e(Y)\leqq e(T)\leqq e(Z)&\Longrightarrow 2a^2 \leqq ne(X) \leqq 2(a+2l)^2 \end{align*}

不等号の向きに気を付けて辺々割ると次を得ます.

\begin{align*} \dfrac{a^2}{2(a+l)^2} \leqq \dfrac{S(X)}{e(X)} \leqq \dfrac{(a+2l)^2}{2a^2} \end{align*}

ここで $l$ は定数ですから, \begin{align*} &\lim_{a\rightarrow\infty}\dfrac{a^2}{2(a+l)^2}=\dfrac12\\ &\lim_{a\rightarrow\infty}\dfrac{(a+2l)^2}{2a^2}=\dfrac12 \end{align*} です. したがって,はさみうちの原理により $\dfrac{S(X)}{e(X)}=\dfrac{1}{2}$, つまり $S(X)=\dfrac{1}{2}e(X)$ とわかりました.

いかがでしょうか.要するに,十分大きな領域に関しては $S(X) \approx \dfrac{1}{2}e(X)$ が成り立っているわけですが,極限を使えばこの誤差部分を無くすことが出来るだろうという発想です.面積が積分で表されることの説明にも使われますね.

補足

実はこの問題を見たとたんに「Pick の定理の類題」だと感じました.Pick の定理とは次の主張のことです.

定理

$X$ を,格子点を頂点とし内部に穴の開いていない多角形とする(凹でもよい).$X$ の面積を $S$,$X$ の内部(周は含まない)にある格子点の数を $i$,$X$ の辺上にある格子点の数を $b$ とすると \begin{align*} S=i+\dfrac{1}{2}b-1 \end{align*} が成り立つ.

大雑把に言うと,多角形の面積は,そこに含まれる格子点の数と辺上の格子点の数の半分の和にほぼ等しいだろうということですが,頂点にも辺上にも格子点が現れるので慎重に扱わないといけません.この場合の証明は本問の最初の発想通り,長方形,直角三角形に関しての成立を述べてから,図形の合体・分割を繰り返して定理の成立する図形の範囲を増やしていくという手法を取ります.

少し発想を変えて,境界上の格子点の問題を回避するようなPickの定理の類似が出来ないだろうかと考えてみましょう.単位格子の内部に $x$ 座標が無理数,$y$ 座標が有理数である点を一つずつ取ったとします.頂点や辺上に $e$ 点が現れないので境界上の格子点の問題は回避できます.ただし回転や対称変換,平行移動で点の位置が変わるといい結果が得られません.それをクリアーするために $p+e$ と $p-e$ の2つを使うというアイデアはさすがだなと思いました.

$e$ 点は三角形の境界上には存在せず,しかもその数は面積の2倍なので,図形の合体や分割に関しては Pick の定理より強い次の結果が成り立つことがわかります.

定理

$X$ を,格子点を頂点とする多角形とする(穴が開いていてもよいし,凹でもよい).$X$ の面積を $S(X)$,$X$ の内部にある $e$ 点の数を $e(X)$ とすると \begin{align*} S(X)=\dfrac{1}{2}e(X) \end{align*} が成り立つ.

シンプルで非常に美しい関係式ですね.なぜ成り立つかもお分かりだと思います.